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こども六法

山崎聡一郎

弘文堂/2019年

  • 読み手:  安藤未沙稀

     バカ、アホ、死ねと言われる。ムキになって、名誉棄損だ! と言い返す。
     言葉の意味をよく知りもしないで、ただ、馬鹿にされるようなことを言われたらそういう罪になるんだろうな、というふわっとした認識のまま、相手を罪に問う。それが当たり前なのかどうかは別として、私の通っていた小学校ではしばしばみられる光景であった。覚えたての言葉を使いたがる子供のようだ、もちろん小学生なんて正真正銘子供に違いないのだが。
     さて、では子供同士の喧嘩で「バカ」と言われた場合、相手を罪に問うことはできるのだろうか。答えはNOだ、バカと言われたからといって相手を罪に問うことなど不可能である。また、これらの罵倒は名誉棄損というよりは侮辱罪にあたり、加えてその侮辱が被害者、つまりは言われた側の社会的地位を落としでもしない限り、この罪は成立しない。では、なぜ名誉棄損などとのたまうのか? 答えは二つある。知っている言葉の中からそれらしきものを使っているだけであり、もちろん法律など知らないからだ。
     そこで六法全書の登場である。この優れものは物理的な攻撃に耐え得る強度、そして重量を持ち、しばしば盾や鈍器として使用されるが、実際にはもう一つ用途がある。なんと、この分厚い本を構成するページの一枚一枚には、日本の主な法律――憲法、民法をはじめとした六つの法分野について詳細に記されているのである!
     そう、六法全書はあらゆる意味で武器となる。この分厚い本の中身を知れば知るほど、日本国民はある意味では腕力にも勝る力を手に入れることができるのだ。
     しかし、いかんせん言葉選びが難しく、二十歳に近い私ですら記載された内容を正しく理解するのに時間を要するし、出て来る単語の意味が分からず辞書やインターネットのお世話になることもある。それでも小学生よりは内容を理解できるため、どうしたって子供より大人の方が有利なのだ。
     では、どのようにして子供たちは身を守ればよいのか? 法律という武器を手にした大人と、身一つの子供が対等に渡り合う術は果たしてあるのだろうか?
     ――ここでようやく『こども六法』が登場する。
     本書は名前の通り、子供のための六法全書だ。掲載内容も子供に関係のありそうなものに絞られており、なおかつ小学生でも十分に理解できるよう噛み砕いた表現が使われている。何をしたらだめなのか、転じて、何をされたら怒っていいのか、相手を罪に問えるのか。
     これは子供たちにとって大きな武器になる。大人相手に木の枝で戦わずに済む上、誰かに危害を加えられた時、正しく声を上げることが出来るのだ。そして何より、正しく威嚇できる。「あなたは私にこういうことをしたけど、それはこういう罪に問われるんだよ」といった風に、具体的な話が出来る。そしてこの具体性に、高確率で相手は怯む。本来許さなくていいことを、許さずに済むのである。
     これを実践することで、もしかしたら可愛げのないやつだと思われるかもしれないし、煙たがられてしまう可能性だって大いにある。だが安心して、こども六法を開いてみてほしい。
     可愛げがないからといって、人を罪に問うことは出来ないのである。

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