加藤隼一
この企画では、種本の候補となる本を何冊か購入した。映画についての本や。私が敬愛する漫画家のこうの史代さん、藤子F不二雄さんの本を今回は購入本としてチョイスした。
他にも、今回本棚として展示させていただいている本はどれも私の大切な本であることは間違いない。
しかし私の趣味趣向を木とたとえ、その始まりの瞬間を種とするなら。この本を挙げないわけにはいかないであろう。という本が、私には一冊あった。それがこの駆け込みで購入した「bisビブリオバトル部」という本である。
この本の著者である山本弘さんという方は、私が青春時代傾倒した作家のひとりだ。そして山本弘さんに傾倒するきっかけになったのがこの本なのである。
この作品は、そのタイトルの通り。「ビブリオバトル」がテーマの作品である。ビブリオバトルとは、バトラーと呼ばれる人が複数人集まりそれぞれが5分間で持ち寄った本を紹介し。その後オーディエンスも含めた参加者全員の投票でチャンプ本を決めるというゲームである。
そのビブリオバトルを用いて、この本の中では様々なカルチャー書籍が取り上げられ広げられる。作者の山本弘さんのオタク的な見識がなせる技だ。その範囲は山本弘さんの主戦場であるSFについてはもちろん。特撮、アニメ、ノンフィクションからライトノベル、漫画まで多岐に渡る。
もちろんこの本の中で紹介される作品が、その時全て理解できていたわけではない。しかし取り上げられる作品の方向性が、自分の好きな作品の方向性と近かったのだろう。作中で自分の好きな作品について熱く語るキャラクターに、すんなりと思い入れることが出来た。
何よりこの作品が面白いのは、そういったオタク的なディティールが。それそのものとして投げ出されていないことである。作品の紹介やキャラクターの作品語りが、ストーリーやキャラクター設定と有機的に結びついている。作品紹介を主としたレヴュー作品は多いが。物語が指向性を持っていて、かつ作中で持ち出される作品が物語の推進力になっている作品はそう多くないだろう。
私は青春を星新一と山本弘に捧げたといっても過言ではない、中学時代に読んだ作品がのちの人生に大きな影響を及ぼしているという人は少なくないと思う。
だが、何より私がこの本を「種」だと思う理由は。この時期から明確に「掘る」という行動を意識し始めたことにある。例えば気に入った本の作家について調べ、他の作品を読んだり類似点を発見して楽しむといったことを初めて意識したのは。このころでなかったかと今思い返すと思うわけである。
そういったメンタリティをこの時期に育んだからこそ。今映画にハマって作品を体系的に読み解いたり、また小説などでももっと作家を意識した読み方が出来るようになったようにも感じる。
こうして思い返してみると、意識的にせよ無意識的にせよ。中学生という時期にこの作品を読むことが出来たのは、大きなことだったと改めて思った。