DEATHNOTEアナザーノートロサンゼルスBB連続殺人事件
西尾維新
集英社/2006年
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『ロサンゼルスBB連続殺人事件』
高校の頃、図書室にずっと入り浸っていた。本が好きだった。そして、一面本に囲まれることの出来るあの空間が好きだった。多分、クラスに一人はいるいわゆる本の虫タイプだったのだと思う。図書室で借りてきた小説を読んで、授業中に泣きそうになったことがある。図書委員も何回か担当したし、ビブリオバトルや読書週間のイベント開催を手伝ったりしていた。そんな思い出深い図書室にあった本を、私は今でもありありと思い出せる。
本稿では、その中でも特に思い入れのある一冊について紹介しよう。「DEATHNOTE ロサンゼルスBB連続殺人事件」である。
高校の図書室の第二書架、入って右手の一番端の本棚に陳列されていたのをよく覚えている。
こちらは同名の漫画原作のノベライズ作品となっている。特徴的な装丁も、作中に出てくる死のノートを模したものだ。
ここまで読んで、なんだオタクの趣味の話か、と思った人は少しだけ待ってほしい。書き手がオタクであることは否定しないが、私はDEATHNOTEのオタクであったからこの本を手に取った訳ではない。初めは原作漫画作品を全く知らず、ただ面白半分でこの本を借りた。漫画のノベライズが、真面目なイメージの高校図書館に陳列されていることが当時はアンバランスで面白いことのように感じたのだ。そして、意味を理解しないまま目立つ装丁の本を手に取り、貸し出しカウンターへと持っていった。夢中になって一日もかけずに読了した。
その結果、西尾維新先生の文章と作品の世界観にどっぷりと浸かることになったのである。
この小説の概要を紹介するにあたって、まずはあらすじを説明しよう。時系列は原作漫画より前、つまり「キラ事件」が起きる前のことである。ロサンゼルスにて、任務に失敗し失意の中にあるFBI捜査官「南空ナオミ」。休職中、偶然にも彼女は世界的な名探偵「L」の手駒として選ばれ、彼と凶悪な殺人鬼「ビヨンド・バースデイ」の対決に巻き込まれてゆく。
ざっくり言えばこれだけである。だが、推理物をよく読む人は今のあらすじに少しだけ違和感を覚えたかもしれない。特に、犯人と探偵について。これは単なる推理物ではなく、最初から犯人は読者に提示されている。登場人物欄にも「犯人」としてビヨンド・バースデイの名の記載があるくらいだ。
必然的に、本作の探偵役であるLの役目は、従来のように犯人を探しトリックを見破るだけでは不十分となる。Lは犯人について分析し、連続殺人の法則を見つけ出した上で未然に殺人を防ぎ、ビヨンド・バースデイを確実に逮捕することが要求されるのだ。だがしかし、DEATHNOTEを読んだことがある方はお分かりだろう。彼は世界一の探偵であり、無闇矢鱈と人前に姿を現す訳にはいかない。万一にも彼が死ねば、何万件という事件を解決に導いたその優秀な頭脳が失われる。それは世界にとって財産の損失である……という事情で、主人公である南空ナオミがLの手足となって遠隔で捜査を担当する、というのが概要である。南空ナオミはLと共に難解な事件に挑む。その中で、時に奇妙な信頼関係を、時に自分の過去の後悔についてのヒントを、更にはFBI捜査官として復帰するための覚悟を得ていくのだ。
そして、なんと言っても目玉は謎解きである。推理ものでのネタバレはマナー違反であらご法度なので言及は控えるが、いくつもの驚きが読み手を待っている。特に、小説という媒体でないと描けない巧妙なミスリードが見所だ。原作に触れたことがある人もない人も、一読の価値がある内容と言える。
少々話は逸れるが、本との出会いは偶然がもたらすものだ。自分自身、何年も毎日大きな本棚に囲まれていても、結局一度も触れずに終わってしまった本もある。私が人生で読むであろう本の冊数は、この世にある本の量から鑑みればほんの僅かに違いない。だからこそ、高校生だった頃の私が興味本意でこの本を手に取ったことに感謝している。その日の私が選んだ本が、こうしてずっと心に残っているのだから。
そして、押し付けがましいが、この気持ちを是非書評を読んでくださっている方にも共有したいと思う。平たく言えば、機会があればぜひ読んでみてほしい。拙い文章では伝えきれない魅力が、この一冊の中に詰まっている。
私の書評をきっかけに、この小説に触れてくれる人がほんの少しでもいるなら幸いに思う。「ロサンゼルスBB連続殺人事件」を読了した時のあなたが、高校生の時の私と同じ表情になってくれるのがとても楽しみだ。
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