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ロビン・フッド物語

ローズマリ・サトクリフ・山本史郎 訳

原書房 / 2004年

  • 読み手:  原田恵里

     ロビン・フッドと聞けば、皆さんはどんなロビン・フッドが思い浮かぶでしょうか。
     狐のロビン・フッドだという人もいれば、某ゲームのロビン・フッドをイメージする人もいるかもしれない。はたまた、私の知らないロビン・フッドかも。私の初めて出会ったロビン・フッドはこの本でした。ローズマリ・サトクリフのロビン・フッド。
     この作品ではロビン・フッドをはじめとする、沢山の仲間が出てきます。圧制に屈することなく、沢山の仲間と一緒に自然豊かな森の中で暮らす。そんなロビン・フッドの一生を書いたお話。
     ここでは、軽くロビン・フッド物語の背景について触れておこうと思います。歴史を知らなくても、十分に楽しむことはできる。私がこのロビン・フッド物語を読んだときも、歴史背景はまったく知らなかった。でも、十分に楽しめました。しかし背景を知っておけば、より一層ロビン・フッドの世界に浸ることができると思います。この文章はそういったことに興味がある人に読んでいただければ幸いです。

     ロビン・フッドは中世において、吟遊詩人などに唄われるバラッド「物語唄」を介して広がりました。バラッドの雰囲気を感じられるかなと思い、冒頭部分のみですが、こちらの訳文を置いておきます。

    いざ聴き召され紳士方  LYTHE and listen, gentilmen,
     自由生まれの殿方よ That be frebore blode;
     語りいだすはかのヨーマンの I shall you tel of a gode yeman,
     ロビン・フッドの物語 His name was Robyn Hode.
     
     ロビンこの世にありしとき Robyn was a prude outlaw,
     誇りも高きアウトロー [Whyles he walked on grounde;
     いまだこの世に見当たらぬ So curteye an outlawe] as he was one
     礼節ふかきアウトロー Was never non founde.
     
     原文:The Child Ballads:117.The Gest of Robyn Hode
    訳文:上野美子著『ロビン・フッド物語(岩波新書)』(一九九八年、二三―二四頁)より

     誇り高き、礼節深きアウトローっていいですよね。
     では、歴史背景について触れていきましょう。
    ロビン・フッド物語の舞台になっているのは中世イングランド。ロビン・フッドという人物が実在していたかは定かではなく、複数の人物の集合であると考えられています。
     この物語は一九九〇年代に書かれたものなので、獅子心王リチャードの時代になります。
    もっと前の時代だとエドワード一世の時代だったり、侵略してくるノルマン人に対抗するサクソン人という構図とかになるのですが、この話では関係ないので割愛します。
    この話の中でロビン・フッドは、獅子心王リチャードが十字軍遠征に向かい、その間治世を任された弟の欠地王ジョンの暴政、圧政に反抗した義賊、アウトローとして描かれています。
     しかし、ロビン・フッドも最初からアウトローだったわけではありません。
     ロビン・フッドはイングランドのヨーマンでした。ヨーマン(Yeomen/独立自営農民)とは、古くは貴族の従者を指していました。十四世紀後半において、裕福な土地保有者として登場。貨幣地代の一般化などによって、小作人たちもヨーマンへと昇格していきました。十五世紀ごろには騎士に次ぐ社会階級の一つとして台頭し、近代以降のイングランドの社会を左右する勢力になりました。
     物語中でも軽く触れられていますが、歴史上のヨーマンはこのような存在です。
     そんなヨーマンであったロビン・フッドがなぜ、アウトローになったのか。それにはこの時代にあった御猟林が深く関わっています。
     イングランドの森林は一〇六六年のノルマン人による征服以来、御猟林法(のち御猟方憲章)によってイングランド王家の管理下におかれました。御猟林指定地域では植物の伐採や開墾、狩猟、無断での侵入などは、死刑や両腕の切断などの身体刑や権利の剥奪で厳しく罰せられました。御猟林を巡る政府と庶民の対立は中世を通して大きな問題であり、悪政の一つとして庶民の不満の種でもありました。
    御猟林制度について触れるのは、これくらいにしておきます。もっと詳しく知りたい方はぜひ調べてみてください。ロビン・フッドは自分が留守にしている間に、ギズボーンのガ
    ガイによって、王の鹿を射ったと虚偽の発言をされてしまいます。
     中世イングランドには刑罰の一つとして、社会共同体からの排除がありました。排除されたアウトローに対し財産を奪おうとも、危害を加えようとも、例え殺害しても、加害者は罪に問われることはありません。十三世紀までのアウトローへの加害を無罪とする規定は排除されるものの、アウトロー制度は中世イングランドの社会問題になっていました。
     彼ら「アウトロー」の多くは社会から逃れるため、森林に隠れ住みます。王家の管理する森林に立ち入れば厳しい罰が待っているため安易に手が出せない。故にアウトローにとっては逆説的に絶好の隠れ家になりました。アウトローは御猟林の獣たちを狩り、司直の手を逃れ、街道をゆく人々や近隣の村を襲ったりするなどして恐れられていました。しかし同時に、法の支配を逃れて権力に従わない彼らを英雄視する風潮も強まっていったのです。

     このような歴史背景があって、ロビン・フッドの物語は進んでいきます。
    残念ながら、ローズマリ・サトクリフの『ロビン・フッド物語』はすでに廃版になっているらしく、中古で購入するか借りることでしか読むことはできません。
    現在では沢山の本が存在し、その出会いは一期一会に近いものだと私は思っています。もし見つける機会がありましたら、手に取って欲しいなと思います。そして数ページ読んでみてください。きっと素晴らしい出会いになるでしょうから。

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