9S
葉山透
電撃文庫/2003年
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『9S』について
じゃーーーーんみて! これ!
ねぇ、ちょっとそんな変な顔しないでよ。ひえっひえのオレンジジュースみたいな目しないで、ちゃんとこれみて。これ。
『9S』。……あ、思い出した?
この本ねぇ、大学の課題でちょっと本について考えてる時に思い出してさぁ。
ひっさしぶりに読みたいなぁ…! って思っちゃって。
ついこないだ届いたの!
あは、めちゃくちゃびっくりしてるじゃん。目、まん丸だよ。でもさぁ、懐かしいでしょ? 忘れたとは言わせないよ?
これ、小学生のとき、わたしがあなたに貸した本。初めて他人と同じ本を読んで、感想を言い合った本。
あなたの気まぐれで、「何か本読んでみたい」って言うから、当時読んでいた本の中からたまたま貸した本。
なっかなか返してくれないから焦ったんだよなぁ…。
あなたって趣味もあんまり合わないし、いつも何考えてるかわかんないなぁって思ってたから、この本を好きだって言ってくれたとき、驚いちゃったな。
この本より前に見せた本は全部難しいって言ってさぁ。全然そんなことないのに。
でもこれは違ったよね。
戦うヒロインがカッコイイって感想が一致したことも、続編を探して図書館や書店を探し回ったことも忘れられないんだ。
同じものが好き、一緒に続きを楽しみにしてる、ってすごくいいことなんだなって教えてくれた本。
あなたと本を紹介し合うようになったのも、その後に出会った友人と本を交換し合うようになったのも、この本がきっかけなんだよ。
だから、これが私の種本。もしこの本をあなたと読まなかったら、きっと私、一人で読書して本を楽しむ、ってやり方しか知らなかったと思うよ。
みんなで読書をする楽しさ、人と読書の感想を分かち合う経験を与えてくれた本。
ね、また本紹介するからさ、あなたの好きな本もまた教えてよ。
え、『9S』の続刊がみたい? 確か、学校の図書館には途中までしか無かったっけ。
そうだ、私の持ってる続刊、貸してあげる。いつかみたいに、また読み終わったら感想聞かせてよ。
わたしも持ってない巻があるなら、一緒に探しに行かない?
そんな楽しみ方も、ありだと思うんだ。
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