新夕和幸
もしも。
もしも世界で一番綺麗な作品を選ぶとしたら何か。
これから先、人生を歩む中でもし誰かにそう問われたのなら。
私は迷いなくこれを選ぶだろう。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。
私はこの作品に出会えて、心底から良かったと思っている。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は京都アニメーション大賞にて唯一の大賞を受賞しており、同会社によってテレビアニメ及び劇場アニメも制作された作品だ。
戦争が終結したばかりの世界を舞台に、元軍人である少女・ヴァイオレットが手紙の代筆人
として人々に寄り添う姿を描いた本作は心打たれる名作として高い評価を得ている。
私は恥ずかしいことにアニメを鑑賞してから原作に入ったのだが、すぐさま本作に魅了され
原作小説を購入。2020年に上映された劇場版にも足を何度も運んだ。
そんな私が書く拙文だが、もし本作にあなたが出会う一助となったのなら幸いである。
本作は原作版・アニメ版問わず多くの人を感動の渦へと物語だ。
例えば上巻の第一話目となっている『小説家と自動手記人形』には、メインの登場人物とし
て愛娘を病気で失った劇作家の男、オスカーが出てくる。
この時点でずるい。こんなの泣かせるぞと言っているようなものだ。
個人的なはなしになるが、私は初めてこの話を見た際、冒頭の時点で、「ああ、泣くだろう
な」となんとなく予感していた。
そして予感通り、私は泣きに泣いた。
あまりにも心はち切れそうな展開に情緒が全力でシェイクされた。
それほどに、氏の描く物語世界は美しかったのだ。
病に倒れた母とその娘の話。
死刑囚が最期に望んだ手紙の話。
そして、主人公であるヴァイオレットの成長を描いた話。
どの話もエンディングを迎えた時、またページをたぐり終えた時、心地よい読後感を覚えな
がら感嘆のため息をつかせられた。
きっとこれを読んでいるあなたの気に入る話もあるはずだ。
読者を引き込み涙させる魅力を持つこの物語がなぜ高い評価を得ているかと言えば、その一因には間違いなく著者の暁佳奈氏が持つ筆力が上げられるだろう。
氏はインタビューにて短編が得意だと述べているだけあって、情景から人物の心理描写まで
どの話も並外れた技巧を感じさせる。正直、同じ文章を書くものとして嫉妬すら覚えるほどだ。
近年、手紙という文化は今珍しいものになりつつある。
普通の手紙はおろか新年の挨拶でさえも年賀状を送るのではなく、電子メールやSNS、メ
ッセージアプリで済ませることが常識とさえなってきているだろう。
手紙。人の想いが綴られている紙には、普段は口にするのも難しいようなことだって書ける。
私たちにとっては久しく、後の世代にとっては縁のないものとなるかもしれないそれの素晴ら
しさを『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は教え、もしくは思い出させてくれる。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。
穏やかな日差しの差す春の草原を思わせるこの名作を、私は永遠の宝物とするだろう。